ストレリチア秘話No.141 ストレリチアの戦略

 植物は生き延びるために様々な戦略を駆使しています。皆が同じ生き方をしていたのでは利害が衝突してしまい共倒れになってしまうからです。植物一般の常識に従うのは当たり前ですが、それぞれの植物がもつ特殊な戦略を心得ることが栽培の基本と言えるでしょう。ストレリチアにも、この植物らしい戦略をいくつも持っています。今までに、そのいくつかを紹介してきましたが、今日はまた、別な例を紹介しましょう。

 それは種子のことです。40年近くも前のことです。ジャンセアの自生地、ブラック ヒルを訪れました。一通り見終わった後、地主の邸宅に招かれました。南アフリカの国土は私有地が多く、地主は初期の開拓民、オランダ系の子孫が多く、その広さは、日本人にとっては想像も出来ないほどです。邸宅の庭では数多くのジャンセアが栽培されていました。いろいろな話の中に、ジャンセアの種子を採取して持っていることが出てきました。私は喜んで購入することにしました。ジャンセアの種子を大量に手に入れることが出来るなんて、そうそう出来ることではなかったからです。種子は全部で2万粒、2リットル以上もあったでしょうか、価格は2万円だったと思います。主人は大喜びで、ワインまで、おまけにつけてくれました。多分、売れなくて困っていたからでしょう。

 私は持ち帰った種子を早速、播きました。ところが結果は無惨で、出来た苗は、わずか十数本だけでした。手順が悪かったとは思いません。思い当たるのは種子の古さだったのです。

 今、日本中に広まりつつあるジャンセアは、この子孫たちです。その後、ストレリチアの研究が進むにつれ、ストレリチア種子の寿命がわかってきました。種子は採取後3ヶ月以内が最も発芽率がよく、1年以内なら、まあまあ、それを過ぎると性能は落ちるばかり、と判明したのです。  今の私は、もう、こんな失敗は繰り返しません。