ストレリチア秘話No.186 ストレリチアの来し方 

 では、いったい、どういうわけでこんな状況が起きたのでしょうか。それにはストレリチア本来の「のんびり、ゆっくり」が基本にあることは確かなのですが、それだけではなく、人の手も加わったからではないかと思えるのです。それを探ってみることにしましょう。

 ストレリチアは元々、南アフリカの原野の自生地にあったものを掘り上げてきて栽培したのが始まりです。この原種は自然が生み出したものですから正常であった筈ですが、後から人の手が加わると、そこでは間違いが起こりかねません。ことは遺伝の段階で起きるのです。

 近親交配は多くの植物にとって決して望ましいものではありません。同じ花の花粉が雌しべ、につく自家受粉では遺伝的に好ましくないことが起きやすいのです。100年も前にダーウィンは、

「自然は自家受粉を嫌う」

と断固たる態度で述べています。このために自然は、色々な方法で自家受粉を避ける方法を編み出しているのです。ストレリチアの場合はサンバードが担当していて、嘴や足についた花粉は同じ花にではなく、次の花につくようにしています。

 私はストレリチアの交配には絵筆を使って花粉をつけていますが、自家受粉では道具は何も要りません。指先で簡単に出来てしまうのです。このためか、どうか、やたら自家受粉でつけた種子の苗が大量に出回ってしまったのです。植物学の素養など、あったものではありません。誰でも簡単に種子が採れるのですから。

 このようにして数多くのストレリチアが出回ったのです。中には性能のよくないのに気がついて投げ出した人もいたことでしょう。でも困ったことにストレリチアは丈夫な植物で投げ出されたからといって簡単に枯れてしまう植物ではありません。しぶとく生き続けるのです。「悪貨は良貨を駆逐する」という経済上の言葉がありますが、ストレリチアの場合は良いも悪いも一緒くた、というのが実情でしょう。これは人間の間違った遺伝への介入が引き起こした事柄と言えるでしょう。