ストレリチア秘話No.278 ストレリチアの分布が示す栽培の教訓

 アフリカ大陸南端に位置するケープタウンから北東のポートエリザベスへかけてインド洋の海岸沿いに走る国道2号線は美しい風景が続くので、別名「ガーデンルート」と呼ばれて親しまれています。一泊二日の行程でバスが通っていて、私も利用したことがありましたが、現在では自家用車に取って代わられてしまっています。一泊するホテルも食事も文句なく、快適な旅でした。海辺で雨量も適当にあるために植生が豊富なことで美しい景色を構成しているのですが、それでも気候の僅かな違いに応じて通る地域ごとに自生する植物が変わるので目を楽しませてくれるのです。

 勿論、ストレリチアの自生地も2カ所あり、コースの中間地点辺りのチチカマ森林地帯には「ストレリチア アルバ」、ポートエリザベスに近づいた辺りで、やや内陸にパテンシーの「レギーネ、パーヴィフォリア、ジャンセア」の混生した自生地があります。本格的な自生地は、もっと東のポートエリザベスやイースト ロンドンです。

不思議に思うのは、これらの自生地が、 地図では針で突いたぐらいの狭い地域にしかないことです。 ガーデンルートの穏やかな気候は、 どこでもストレリチアは生きていけるはずなのに、先に挙げた自生地以外には全然、見当たりません。 どうしてなのか考えた結果、 思い当たりました。気候条件がよいために、大きな植物が先に侵入してしまい、ストレリチアが仲間入りする余地がないらしいのです。折角、住みよい土地を見つけても、指をくわえて見ているしかないのでしょう。

チチカマ森林のアルバは背の高さで、他の植物を圧倒出来るので生きています。パテンシーでは、丘の頂上の乾燥した場所で、他の植物が、おいそれとは近づけない場所でストレリチアは住処を見つけました。イースト ロンドンでレギーネの自生が多いのは、ほどほどの場所に恵まれていたからでしょう。それでも旱魃が続いている年に訪れた時に見たストレリチアは息も絶え絶えの有様でした。ここを過ぎたトランスカイでは、海辺にニコライがあるだけで、陸地にはストレリチアは全然、見当たりません。 気温が十分なのに雨が少なく、植物には厳しすぎるようです。 インド洋に沿った広大な地域なのにです。もっと東へ進んでダーバンを過ぎてスワジーランドやモザンビークに近づくと、そこはもう亜熱帯で暑すぎて、ストレリチアには幸せな土地でなくなってしまいます。どうもストレリチアは、生きるか、死ぬかの境目に生きているように思えてきます。 少なくとも極楽ではないようです。

 こう見てきますと自然ではストレリチアが広がることが出来ない障害はあるのですが、人工的に処理できないほどのことではないことが分かります。そこにこそ栽培技術があり、また、それは難しいことではありません。ストレリチアは許容の幅の広い植物です。これを相手にする幸せをしみじみと感じています。