ストレリチア秘話No.472 ストレリチアと自家(花)不和合性

 少々、難しいテーマですが、ストレリチアを手がける以上は、植物学の素養を身につけることは必要でしょう。これがないと、思わぬ失敗をしてしまいます。花を咲かせて実を付ける植物には雄と雌が必要です。これが、それぞれ、雄花、雌花に別れれるものと、一つ花に同居するものとあります。ストレリチアは後者です。

そこで、雌花の柱頭に雄花の花粉が付いて交配がなされるのですが、大部分の花が自分自身で行うのを避けています。これを自家(花)不和合性と呼んでいます。同種の交配(近親交雑)による性能の劣化を避けるために、新しい遺伝を持った子孫を誕生させたいからなのです。イネやムギは、そうではありません。それは人工的に生ませた純系だからです。実は、この辺りから混同、誤解が生まれてくるようです。

植物は自家和合が起きないよう様々な工夫を凝らしますが、中には、不完全、不徹底なものもあります。ストレリチアは、その一つなのです。自然ではサンバードが花粉を他の花へ運んでくれますから問題ありませんが、人間が強行すれば自家交配が成立してしまい、種子が出来ます。こうして殖やされてしまったストレリチアが意外と多く、現在でも多数、出回っています。それでも、交配の世代が、まだ浅かったからでしょう、昔からの強健さを引き継いでいて、しぶとく生き残っているのです。それはよいとしても、ストレリチアが嫌がる自家受粉の結果ですから、性能は劣ります。それでも外側から見た限りは、他と区別が付きませんから、「ストレリチアとは、こんなものか」と思われる事態が起きるのは困ります。

でも、自家受粉は他の目的でも使われます。その一つ、或る特殊な形質を取り出したい時、「メンデルの法則」のご厄介になるからです。この法則は、いくつかに分かれますが、その一つ、「雑種第一代を自家受粉すると、持っていた遺伝が分離して(先祖帰りを起こして)、様々な子が生まれる」があります。これを利用するのです。こうして希望する形質を取り出すのですが、それは、途中の経過であって、一人前の品種にするには、もう一度、あらたな形質を加える交配をしています。実は、ジャンセアゴールドの誕生は、このルートを辿ってきました。この他、純系は自家受粉の繰り返しで作出されます。

 ストレリチアは、外から見ただけでは分からない、複雑な背景を背負っています。それを無視してしまうと間違いが起きるようです。