ストレリチア秘話No.119 ストレリチア品種改良の裏話 その2

 昭和30年代の頃です。カリフォルニアから送られてきた園芸雑誌にシンビジュームの苗を養成している写真を見ました。何と、何万、何十万本も並んでいるのです。当時の日本人には信じられない光景でした。私たちは1株手に入れるだけでも大変な時代だったのですから。そこで、或る日本人がいいました。

「こんなに大量に作って、どうすんだろう?」

と。その時は私も同感でしたが、何年かしてから気がつきました。彼らはバーバンクの手法を受け継いでいたのです。養成した何十万本の中から1本でも優れたものが現れてくれればいいのです。後は、それを使って大量に増やす技術は整えてあるのですから。

 その後、私も育種の仕事に関わるようになりましたが、このバーバンクの教えから離れないようにしてきました。しかし、そうはいっても、必ずしも守れているわけではありません。カリフォルニアほどの広い土地ではなく、また、種子を大量に採ろうにも親株の数に限りがあります。それでも、可能なかぎりは近づけようとしているのです。

 私の所では、養成した苗の1%、甘く見た場合は5%ぐらいが選抜されて生き残ります。

残りの95%は廃棄の運命となります。私の仕事はウイスキーのブレンダーに似ていなくもありません。ただし、大きな違いもあります。ウイスキーの調合の結果は、その場で、すぐにわかるのですが、植物の遺伝の組み合わせは、結果は早くて数年後を待たなくてはなりません。その上、遺伝は複雑条件が加わりますから、生みの親の目的に近づけるのは容易なことではありません。そのために多くの苗を用意しなくてはならないのです。