ストレリチア秘話No.468 ストレリチア 名品の行くすえ

 私の仕事はストレリチアの名品を生み出すことにある、といっても良いかも知れません。

毎年、数は少ないながらも優秀品種を出現させていますから。それなら、じきに名品が世の中にあふれてしまうだろう、と思うのは早合点です。増えると同時に減るのもあり、差し引きすると、+か−、どっちか分からない、のが現状ではないかと思っています。

 生命のない骨董品や美術品は長く保存できます。それでも、事故、その他のために、長い目で見ると失われていくようです。その点、植物は殖えるではないか、といわれそうですが、実は、そう、簡単なことではありません。飽きたら、美術品なら倉へ収納すれば事足りますが、植物は保護者を失った途端、生きてゆけなくなってしまいます。例え、その人が生きていても、関心がなくなってしまえば同じです。せっかくの名品の価値が値段で比べられてしまうのです。何とも情けない気分です。また、名品を渡したのに、不手際で枯らしてしまった例も少なくありません。その植物が株分けされていれば、複数の人に分散されていますから、まだしも生き残る可能性がありますが、単品であったら絶望的です。私は長い間に多くの名品を嫁入りさせてきましたが、相当数の人が、その後、音信不通で、その行方が不明となってしまっています。

 その名品の本当の価値が分かってくれているだろうか、そうでない場合は粗末な扱いになってはいやしないか、と心配になってくるのです。TVの「お宝番組」を見ていると、名品と持ち主との評価の食い違いに唖然とさせられてしまいます。生み出す側から言えば、名品は、正しい評価がされ、それなりに扱って欲しいのです。それでも、いくら長生きする植物でも、その人が亡くなってしまえば保護者を失った植物が路頭に迷うのは、「この世のならい」とあきらめるしかありません。「忠犬ハチ公」のような扱いをしてもらえることなど、滅多にありませんから。