ストレリチア秘話No.262 ストレリチアと様々な技術  

 第二回のストレリチア自生地調査の時でした。ポートエリザベス大学植物学教室のファン ダ フェンター教授を訪れました。そこで教授は、ニヤニヤ笑いながら、つまり、あまり、真面目なようすではなく、広口の瓶に水栽培されたストレリチアをみせて、「こんなことも出来るんですよ」と話してくれました。近頃は、あまり見かけませんが、一時期、チューリップやヒヤシンスの水栽培が盛んで、専用の容器まで販売されていました。それをストレリチアでも試してみた、というわけだったのです。ただ、「それも可能だった」というだけで、その後、広まった形跡はありません。その時、教授は、「ストレリチアも茎頂栽培をやってみたらどうですか」と話してくれましたが、私は乗り気になりませんでした。すでに洋ランで得失を経験していたからです。

 その後、我が国でも2、3試みられ、苗もできたようですが、いつの間にか消えてしまったようです。割に合わなかったからでしょう。茎頂栽培がもてはやされたのは洋ランだけでした。寒天栽培地上で大量に増えたのは洋ランだけで、普通の植物では1本の芽からは1本しか栽培できなかったのです。これでは苦労して手をかけても報われません。

 現在、茎頂栽培が有効に働いているのはカーネーションだけです。これはウイルスの除去のためで、本来の目的に叶っているからです。しかし、ストレリチアはウイルスには犯されませんから、この操作は必要ありません。

 洋ランはメリクロン苗が大量に出回ることによって生産過剰を引き起こし、結果として流行が衰えていきました。新しい技術は、一見、バラ色の未来を約束するように見えますが、それは幻であって、果たす役割を冷静に見る必要があるでしょう。ストレリチアの難点は、生育に年数がかかることですが、仮に新しい技術が生まれて、短時間で育てることが出来るようになったら、どうなることでしょう、多分、ひ弱な植物となってしまい、その欠点を補うことに追われるのが栽培の中心になるに違いありません。年数がかかることと、強さは一体のものなのです。長所と欠点は、裏、表と見るべきでしょう。

 「天は二物を与えず」と心得ることがストレリチア栽培の要諦と思っています。