ストレリチア秘話No.370 ストレリチアの系統による遺伝変化の差

 ずいぶんと硬く、難しそうなテーマです。でも、例え、自ら交配、育種にかかわっていなくても、自分の持っているストレリチアについての理解が深くなりますから、我慢して下さい。

「ストレリチアは頑固な植物です」

 これはストレリチアの形質の、いろいろな面についての表現ですが、この中には遺伝の変化も含まれます。

 私は長い間、各種のストレリチアの系統の育種にかかわってきました。その経験によりますと、遺伝の変化に対する頑固な抵抗も系統によって差が有ることが分かってきました。

1,基本的な古くからのレギーネのオレンジ花

これは最初に手がけた仕事で、なかなか、思う通りには変化してくれず、ストレリチアの頑固さには閉口しました。

2,オレンジ プリンスの誕生

そこで黄色種の遺伝を加えてみました。すると、花色はオレンジながらも洗練された美しさを備えたオレンジ レギーネが生まれてきました。草柄も原種の厳めしさから離れて、やや、やさしく、女性的ともいえる姿となりました。この品種は、現在、切り花として多く出回っていますから、現代の人々が抱くストレリチアのイメージの基本になっている、ともいえるでしょう。ただし、これは日本だけの話しです。しかし、未だに古い系統もしぶとく生き残っていますから、オレンジ プリンスが社会全般にゆきわたっているわけではありません。

3, ゴールドクレストによって華やかさが加わる

期待を込めてかかった、この交配は、見事に新しいストレリチアの美しさを生み出してくれました。この品種を希望する人たちは、いまだに続いています。私は、この流れは数年で終わると思っていたのに、30年も過ぎた今でも続いているのに驚いています。この分では、まだまだ続くかもしれません。

4, ジャンセアオレンジこれこそ、頑固さの代表でした。

今まで手を付けなかったジャンセアの交配に掛かったのは25年も前のことでしょうか。1000本の苗を養成しました。生長の遅いジャンセアのことですから、開花までに、ずいぶんと時間が掛かりましたが、結果は私の期待どうりではなくて、成株まで育てたものの、約7~8割は、捨てる羽目になってしまいました。花も大したことはなく、花立ちも悪くて使いもにならないと判断したのです。現在では選ばれた優秀品だけが残されていますが、それも全体の1割程度でしょう。ストレリチアの頑固さに手を焼いた交配でした。

5,ジャンセアゴールド これは思惑を超えた大成功でした最新の交配です。

 詳しい素性は今までに紹介されていますので省きます。これは今までのようなストレートな交配が出来なくて、回り道をしなければならなくなったのですが、結果として、それが幸いを生み出したのです。普通の今まで通りの組み合わせでは頑固さが正面にでてしまうのでしょうが、黄色とオレンジの二重の遺伝が加わって

DNAの活動が活性化したのかもしれません。成育が、やや早く、花立ちもよく、花も優れている個体が多く生まれてきたのです。それに、もう一つ、名花の出現率が高く、そう多くもない苗の中から、次々と優秀花が出てきてくれるのです。苗の数が少ないのは、親株が僅かしかないからなのですが、今後、多くの種子が採れるようになったら?と期待がはずみます。

それにしても、開花まで20年もかかりましたが、そのコストは十分、報いられたと思っています。

まだまだ、これからも続ける予定ですので、その都度、紹介いたします。