ストレリチア秘話No.487 ストレリチア栽培の迷信 花の切り方

 どんな分野にも、たいてい、何らかの迷がついて回ります。ストレリチアにも勿論です。

 正しい、基本的な情報が広まっていない分野ですから、なおさら、呆れた迷信には事欠きません。これは、その中の一つで、我が国、日本だけの現象ですから、海外の人が聞いたら理解出来ないことでしょう。

それはストレリチア切り花栽培農家に主に信じられていることで、「ストレリチアの花は引き抜くべし、刃物で切ってはならない」という迷です。私は長い間、栽培家に会う度に。

「花は根本から、ついている葉もいっしょにナイフか包丁で切って下さい。ついでに周りの古い葉も切ります。これは、単に花を切るだけでなく、日当たり、風通しをよくするための整理作業でもあるのです」

 というのが常でした。ところが、その場で反論する人は、まず、いないのに、家へ帰れば、相変わらず花を抜いているのです。つまり、納得していなかったのです。私は、あきれて事情を調べてみました。すると、次のようなことが背景にあって迷を、念として支えていることがわかってきました。

 「花を刃物で切れば、その傷口からバイ菌が侵入するではないか、そんな危険を冒すわけにはいかない。だから、傷つけないよう抜くのが良いのだ。また、働いている葉を切るなんて無茶ではないか」

 と。でも、この論には間違いが入っていることに気づく人が、なかなか、いないのに驚かされます。抜いたからといって、無傷ではありません。無理矢理、引き抜いた先端に傷が出来る事に変わりはないのです。ナイフの切り口は、よく見えるのに対し、抜いた傷は柄にかくれて見えないことにだまされているのでしょうか。迷には「かわいそうだ」との感情が背景にあることがよくあります。花一本の傷口を心配するなら、植え替え、株分け時にバッサりと大きな傷口が出来るのをどうするのか、との問題につながります。以前の「株分け」の章で述べましたが、丁寧にやればやるほどストレリチアにとっては迷惑になることが起きてきます。ストレリチアはひ弱な植物ではありません。思い切りの良い、果断な処置が向いているのです。なぜなら、その処置が一番、被害が少ないからなのです。

 葉も、若くて、働いているのを切るわけではありません。ストレリチアの花は前年の古い葉から出ます。ということは花を咲かせれば役目を終えた、ということです。それが切られてなくなったからといって困る事はないはずです。

 私が、こんなことを、述べたからといって、この迷が、直ぐに消えるとは思っていません。理論と違って迷信は深く根を張って言じられています。しぶといのです。或る地域で、或る人が、ストレリチアの花を抜いていて腰を痛めてしまい、接骨院通いをするはめになったそうです。ストレリチアの花を抜くのは力仕事ですから、こんな笑えないことまで起きてきます。でも、この人、抜くのを止めたとは聞こえてきません。

私のすすめる方法は、その事以外にも思わぬ利点があります。その株の性能が一目で分かることです。開花シーズンの終わりになれば、優秀株は、やせて、スッキリとした姿になるのに対し、望ましくない株は、にぎやかに薬を繁らせたままです。ストレリチアの葉は3年生きています。でも、光合成の働きは、いいとこ、2年で、3年目は株を守るのが使命だろうと見ています。だとすると、自然の自生地では3枚目は必要であっても、人工栽培では、人に守られているのだから、役目は無く、切り取っても何ら差し支えないのではないかと思います。それどころか、通風や日照の点から見れば、かえって無い方が有利ではないでしょうか。