ストレリチア秘話No.321 ゆっくり、ゆっくりがジャンセアの生きる戦略

ストレリチアは生長が遅く、反応も鈍感なのが特徴ですが、その中でも一番、強く受け継いだのがジャンセアです。それを選びに選んで、せっかち人間の私が好きになってしまったのは、いったい、どういうことなのでしょうか。あまりにも隔たりが大きいからこそ惹かれてしまったのか、或いは、どこかに共通する部分があったのか、良く分かりません。

 ジャンセアの自生地は雨量 300ミリしかない、厳しい乾燥地なのですが、それでもジャンセアだけが生きているのではなく、他の植物も同居しています。つまり、似たもの同士の寄り集まりです。その中でも目立つのがアロエです。ストレリチアは乾燥に耐えるために根茎に水を蓄えますが、アロエは葉に貯めます。違った構造で対処しているのです。

 ユイテンハーグ自生地では、東側は密なブッシュですが、西側は、中へ入ると、開けた空き地もあり、そこにはアロエ ストリアータ{サンゴ アロエ}が散在しています。この種は無茎で背が低いですから、明るく、開けた場所でないと生きてゆけません。ブラック ヒル自生地はやや密なブッシュで、アロエは、茎が1m50cm以上も伸び上がったアフリカーナがジャンセアに寄り添っています。ストレリチアもアロエも長生きする植物同士です。

 こんな悠長に生きる植物の間に立つと、あくせくした気分の自分が気恥ずかしくなってしまいます。

 私の庭でもストレリチアもアロエと同居しています。私だって同居人の一人なのですから、少しでも彼らとペースを合わせようと努力はしています。修養する、という高尚なことは、そうそう出来ません。あの手、この手と手段を考えるのです。

 まず第一は、花立ちの悪いジャンセアは、お引き取り願っています。それでなくても育ちの遅いことに耐えているのに、いつになったら花が咲いてくれるのか分からないのでは、とても我慢が出来ません。側にあるだけでイライラが募ってしまいます。ところが、ジャンセアには多いですから気をつけねばなりません。そこで、花立ちのいいものだけを残すようにしているのですが、それだって毎年、同じように咲いてくれるわけではありません。ジャンセアは持っている養分を使い果たしてしまうと、しばらくは貯金に励まなければならないのです。花が楽に出ることを証明してくれた株は、その年は休んでも来年は花がでるだろうと言じて安心できるのです。それにしても、毎年、安定して花を見るには、いくら花立ちがいいとはいえ、一株では無理です。大株なら力がありますから、本数が減っても咲いてくれるでしょうが。

 第二は数多く持つことです。一株しか持っていないのでは、とても付き合いきれません。そこで、背の高いもの、低いもの、花色の違う品種、開花時期の早い遅いとコレクションすれば、それぞれに変化がありますから、単調ではなくなってきます。一株の変化は待ちきれなくても、数が補ってくれるわけです。

  せっかち人間は、それなりに、いろいろと自分の欠陥を棚に上げて考えるものです。だからといって、技術上の手段だけで、すべて解決できるわけではありません。最後は、やはり、ジャンセアと折り合いをつけてゆくしかありません。しぶしぶながら、かれらのペースに合わせてゆくしかないのです。徐々に「まあ、待つしかないんだなあ」とのあきらめの境地に近づいてゆくのです。ジャンセアと付き合うのには、やっぱり、最後は忍耐が求められてしまいます。