アロエ ハエマンティフォリアを始め、南アフリカ産の頑固な植物が、故郷の環境条件に強くこだわるのは、その育つ環境が、あまりにも苛酷なために、それに対して全面的に適応しなければ生きていけなかったからでしょう。私たちが困るのは、その習性が、長い間に固定化してしまい、他の生き方ができなくなってしまった点にあります。また、ストレリチアの自生地近く、東ケープ州のインド洋沿いの地域に自生するプロテアは、楽に生きられる環境に安住してしまい、他の生き方には見向きもしない。つまり、「習い、性」となってしまったらしく、そっくり同じ気候でないと生きてゆけません。これらは共に柔軟性を失ったといえるでしょう。それなのにストレリチアは、違う環境にも適応する柔軟さを持ち合わせていました。これは大きな長所です。
ストレリチアは、まだ、人工交配の代が少ないので、まだ、そんなに原生の状態から大きくは離れていないでしょうが、そろそろ、気をつけなければならない段階に差し掛かってきているのではないでしょうか。種子からの実生で生まれた苗は、その生まれた土地の環境に適したものだけが生き残り、また、そこでは人の好みによる選抜が行われます。ストレリチアも、すでに、これを何世代も経験してきました。ということは、原生の姿から離れ始めているのではないかということです。極端なことを言えば、現在の品種は、自生地へ戻しても、もう、生きてゆけないのではないかと思われます。多くの花を咲かせるには、それだけの水が必要ですが、それには自生地の雨量は少な過ぎるからです。
ストレリチアの遺伝に関わる仕事をしている私から見ると、品種改良とは、人の望む形質を生み出させることにあるのですが、それには厳然とした限界があります。それは、良いことばかりを付け加えるわけにはゆかないことで、DNAを一つ加えるには、一つ。失わないと入れ替えが出来ないことです。この繰り返される改良の際、失われてゆくDNAの中に、野性の力強さの遺伝が含まれてしまいます。これは、今まで作物の家畜化、栽培化が辿ってきた道です。
ストレリチアの長所が、丈夫で、手が掛からないことにあるのは、原生のたくましさを保持しているからなのですが、ストレリチアの持つ柔軟性が、この良さを失わせることにつながりかねません。気を配らなくてはならない問題だと思っています。
この意味合いからも、親株として原種の維持は必要です。ただし、原種であれば何でもよいのではないのです。原種である上に改良された園芸種に劣らない長所も合わせ持っていることが望まれます。その点で、「ゴールド A」「マンデラスゴールド」「ジャンセアユイテンハーグ」は、いつまでも貴重な存在であり続けることでしょう。
ところで、私は時どき「放置されても生きているストレリチア」を見ることがあります。
人が住まなくなった廃墟の庭や捨てられ同然の扱いであったりします。人が全然、面倒を見てくれなくなっても生きていられるのは、まだ、野性の形質が残っているのを示しています。でも、よく見ると、持ち帰って栽培したいほどの魅力がない系統です。だから、放置されているのです。ところが家畜化、園芸化が高度に進んだ植物は、私たちに恩恵を施してくれますから愛されます。でも、それは、人が栽培したときだけの栄で、面倒を見てくれる人がいなくなれば生きてゆくことはできません。田畑の作物の大部分がそうです。
これからのストレリチアが、どの段階に位置していくことでしょうか。
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