前章では、違いを移住の歴史から見ましたが、実は、詳しく見ると、この両者、遺伝に少し違いがあるのです。最初に住み着いたのがユイテンハーグで、次に一部分がブラックヒルに移住したのであろう、というのが私の見解ですが、そのまま、移住したのではなく、そこで遺伝に変化が生じたのではないかと思われるのです。
この両者、姿形に変わりはありませんが、花の色と形に違いがあるのです。先ず、苞の色、ユイテンハーグ系が紫がかかるのに対し、ブラックヒル系は赤なのです。次が首で、ブラックヒル系は、よく伸びるのに対し、ユイテンハーグ系は、伸びず、隠れています。
私の所では、この両者の交配をしてきましたが、結果は、ブラックヒル系の形質が支配的です。この原因は、移住したブラックヒル系の方が、若々しく、活力に富んで、遺伝のカも強いのではないか、これも私の思い込みです。
それにしてもユイテンハーグ系にも捨てがたい味があります。ことによると、遺伝の力が弱いのではなく、交配の相手との相性が悪かった、とも考えられます。優秀品種「ジャンセアユイテンハーグ」の紫紅色の苞は得難いので、何とか相性の良い相手を見つけようとしています。しかし、それも簡単なことではありません。遺伝の組み合わせは、遠縁の方が良い結果を生むといわれているのに、自生地は2カ所しかなく、しかも、元は同じ系統なのです。変わった相手を探そうにも、これではお手上げです。それでも、僅か一つ、使えそうな品種が登場してきました。それは「ジャンセアゴールド」です。この親の黄色原種は、同系の出身でも、黄色に変化したので、遺伝構成が変わっているのではないか、と思われるのです。しかも、オレンジ レギーネの遺伝も入っています。そこで、期待を込めて交配にかかろうとしているところです。でも、結果が判明するには時間がかかります。なにしろ、「ゆっくり、のんびり」が特色のジャンセアなのですから。
まだまだ、調べたいことは数多くあります。植物体、そのものを研究することは、どこでも出来ますが、変化が、どのように起きてきたのかを知るには、先祖が住み着いた自生地は貴重です。それが失われつつあるのは残念でなりません。その点、ブラックヒルは、まだ、しばらくは安全でしょう。山あいで土地は平らではなく、交通も便利とはいえない地域ですから、目は付けられるまでには時間がかかることでしょう。