ストレリチアは環境の変化には鈍感ですが、たった一つ、高温には反応する、と前章 No.483にて述べました。昼夜の温度差が大きいと、日中、高温になると、急激に生長(細胞分裂)した結果、組織が柔らかく、弱く出来てしまうのです。時間を掛けて、後から強化はされるのですが、その前に花の重みに耐えられなくて首が曲がってしまう現象でした。鈍感なストレリチアが、こんなに日に見える動きをするのは珍しいことです。
最近になって、もう一つ、高温の影響ではないかと思われる現象の報告がありました。30度を超える気温ぐらいは毎年、すべてのストレリチアが経験している常識の範囲内ですから、特別なこととはいえません。いつものことですから何ら不思議はないのですが、今度の出来事は、今までの常識を越えています。
2年前、或る人が「ジャンセアンゴールド」を一鉢、買ってゆかれました。まだ、一般には知られていない最新品種です。それが翌年、花が咲いたらオレンジだった、と返しにきたのです。私は,その株の黄色花を自分で確認していましたし、また、今までのところ、この交配の苗の中からオレンジに戻った例はありませんでしたから不思議に思ったのです。。いろいろ、経過を聞きますと、夏、秋と温室の換気をしないで、40度を超える越える高温の中に置いていたらしいのです。オレンジ色に戻った写真まで見せてくれました。驚いたのは花弁に赤色が戻っただけではありません。苞の首の赤色が私が見たときより、濃く、美しくなっていたことです。これは、花弁に赤色が戻っただけでなく、苞の色まで強化されたのでしょうか。私は信じられないものに出会った感じがしてきました。本人は、これを自分が引き起こしたことだとは思っていません。私がオレンジを黄色として売ったと思っています。
仕方なく私は別の黄色種と交換しました。私にしてみれば私が、間違えたのではないことはわかっています。持ち帰っても、環境が変わらないなら、同じ事が起きるに違いないでしょう。
私としては引き取ったものの、そのままにしておくわけにはいきません。果たして、そんなことが起きるか、どうかを確かめなければならないのです。あいにく、今年は花が出ませんでしたので、来年まで待つしかありません。でも、私がやることは、我が家の正常な環境に戻したら、元の黄色に戻るか、どうか、だけです。私には、昔の「釜ゆでの刑」に近いような虐待をする気はありません。この結果からストレリチアに新しい遺伝形質が生まれたわけではないのです。赤色の発現を抑えていたプレーキが高温のために働くなっただけの現象かも知れないのです。それも、ひどい環境の中、生きるか、死ぬかの苦しさに耐えかねての行動かもしれないのです。私はストレリチアの研究とはいえ、虐待になる実験までは、する気にはなれません。
*南アフリカでは、内陸部では、夏の日中、41度の高温は珍しくないそうですが、空気が乾いていて、風も通り、また、日陰は涼しく、耐えられない気候ではないようです。私が「虐待」と表現したのは、高温だけでなく、ムッとするような多湿が加わり、しかも、空気が動かない状況だからです。この章の結果は、問題の花が咲けば判明しますので、それまで、しばらく時がかかります。