前に我が日本がストレリチアのトップレベルにあると述べましたが、それには、少々、解説が必要です。質が高いのは、トップクラスのオレンジ プリンスの切り花だけで、一般に出回っているストレリチアのレベルは、原産国、南アフリカには、とても敵いません。
私はストレリチアの評価を 5段階に分け、星の数で表わしています。それに従うと、我が国で出回っているストレリチアは、相当数が*星以下であるのに対し、南アフリカの公園や道路の分離帯のような公共用地に植えられているストレリチアは、最低でも**星で、時には***星も珍しくありません。
南アフリカは花の国で、有り余るほどあるせいでしょう、自然にあるものを採ってくれば良く、種子でさえ、人工交配はせず、自然のままを使っています。それが一定の水準となっているわけです。
我が国へは、このストレリチア原種は、ほんの僅かしか入っていません。大株ですから、輸送が簡単では無いからです。そのため、種子からの養成に頼ったのですが、これには遺伝上の難しさが控えているのに知識不足でストレリチアが望まない自家受粉で種子を殖やしたのです。その結果が原種以下のレベルのものが多く生まれてしまったと見ています。
私が初めてストレリチア自生地を訪れた時は、自然、そのままに見えたのですが、やがて、そこも、人の手が加わっていたことを知らされました。ヨーロッパからの開拓民が入植して以来の二百数十年のあいだに人目を引く優秀花は、掘り上げられ、人間世界へ運ばれていたのです。それでも、わずかな数でしたから、自生地の環境を変えてしまうようなことはなかったのです。残ったのはカスばかりかといえば、そうではなく、一定の水準は保たれていました。ここに自然の力のしたたかさを感じます。原種にはひどいものなどないのです。あるのは人間世界で、特別、優秀なものもあれば、見るに耐えない、ひどいものもある、つまり、「玉石、混淆(こんこう)」なのです。
私はストレリチアの将来に品質の向上を見ていますが、実現は簡単に進みそうはありません。水準以下の品に持ち主が気がついて投げ出しても、「タダより安い物は無い」と、もらい手は多く、また、しばらくすると同じことを繰り返す。結果として、あちこちに広まってしまいます。ストレリチアが簡単には枯れない強さが裏目に出てしまうのです。
この章は夢を語るのはなく、グチをこぼすことになってしまいました。せめてもの罪滅ぼしに、この秘密の一端を明かしましょう。そんな難しいことをやったわけではありません。
「交配は遺伝の法則からはずれず、優秀な親株を使うこと」と、「数学の確率の法則に従い、多くの苗を養成して、その中から選抜する」だけのことでした。特に、この確率は重要です。原種は数が少なく、もう、これ以上は増える見込みはありませんから、この中からの優秀花は望めません。広々、原種の優秀花はわずかしかなかったのです。(しかも、独得な個性を持っていますから、不足を補う意味からも交配の必要も生じます)それに引き換え、いくらでも作れる交配種の将来は無限の可能性を持っています。
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