ストレリチア秘話No.640 ストレリチアとの付き合い方ってあるでしょうか?

 私は93歳、ストレリチアとの付き合いは60年を越えています。ストレリチアの寿命は千年、それなのにわたしたち人類は百年足らずしか生きられません。ストレリチアを栽培するとは10倍の寿命の相手に対しなければならないことなのです。そんなことは私が思うにはストレリチアを相手にする困難さは、ここにあるのです。簡単に言えば、10倍の寿命の相手と対等に付き合うにはどうしたらよいか、ということなのです。

 普通に考えれば、10倍の違いは越えられないのだから、人間の方が我慢するしかないとなるでしょうが、私のような「せっかち人間」にはそんなことは出来ません。それでも、ストレリチアを相手と決めたからには、せっかちでもやれる方法を見つければ良いのだ、と思うようになったのです。この章では私なりの手段を紹介しましょう。

 ストレリチアの生育は遅いので一本の苗が育つのは寒い季節1日当たり、1mm、暑い季節でも3~5mmです。そこで私は考えたのです。一本が1mmでは、とても我慢が出来ないけれど。千本扱えば1000mm、つまり1mになる。これは凄い。毎日1mも育ってくれるなら、

 遅いなどとはいえないではないかと思うようになったのです。そのとき始めたのがオレンジジャンセアの苗、千本の養成でした。その後、開花が始まり毎年、何十本もの新花がみられるようになりました。こんなことまで出来てしまったのです。ここで分ったのは、ストレリチアは1本なら育ちが遅くて待ちきれないが、量を多くすれば事情は変わってくることなのです。

次は実生苗の養成でした。ストレリチアは実生苗の養成後、開花に至るまでレギーネで数年、ジャンセアでは10年近く掛かります。これは大変な長さで、そうそう手がけるのは容易なことではありませんが、育種家としては避けられないことです。私は、この年数を短縮することを考えました。とは言っても苗の生育年数を短縮することは出来ません。

そこで交配を毎年、続けることにしました。こうすれば、最初の交配が数年後に開花すれば、あとは毎年、開花が続いてきますから、後の開花は1年待てばよいことになります。つまり、数年ではなく、1年と見ればよい事になるのです。これは現在でも続けていますから、毎年新花を見ることが出来ています。私がやって来たのは、時間を短縮するという不可能を短く感じられるような手段に変えたのです。これは姑息な手段だと呼ばれても仕方ありませんが、少なくとも私には耐えられる方法なのです。

 兎に角、寿命の長いストレリチアに対応するには何らかの方法が必要なのです。もし、まだ、他にもよい方法があるなら採用することにやぶさかではありません。