ストレリチア秘話No.256 ストレリチアの世代交代は人類の手で

 太古の昔からストレリチアの進化は自然によって行われてきました。それを近年になって人類が手がけるようになり、現在も進行中です。

 私は、7回に及ぶ南アフリカの自生地調査で新しく誕生したストレリチアの小苗を見たのは、わずか3本だけでした。しかも、それが育った若い株に出会ったことは皆無です。このことから推しはかれるのは、ストレリチアは数百年、千年と生き、世代交代は、それだけのスパンで行なわれるのだろうということです。進化は遺伝子の組み替え時に起きるのですから、こんな長い時間のサイクルでは、我々の百年にも満たない寿命から見れば、殆ど変化はしない、ということになります。このまま行けば、環境に大きな変化がない限り、進化が起きるには何千年、何万年も掛かることでしょう。

 ところが、人の手に掛かると、種子から育てて開花に至るまでは、レギーネで5,6年、ジャンセアでさえも10年位の年数で可能です。これくらいの年数のサイクルなら、人の短い寿命のなかでも何回も世代交代を繰り返すことが出来、新しい進化も期待できるでしょう。簡単に言えば、人類の手が加わったことで進化が加速されてきた、といえるのです。

 進化は遺伝子の変異から起こります。普通、遺伝の伝達は、順調に、正確に受け継がれてゆくのですが、この世の常で、時には間違いも起こります。これが変異を起こすのですが、そう、やたらには起きるわけではなく、俗に百万回に一回程度、といわれるくらいです。まあ、それに変異は無目的に生じます。しかも大部分の変異は望ましくないことで、人の望む良好な変異は、ほんの僅かしか生まれません。まあ、「宝くじに当たる」ぐらいの確率になるでしょう。その結果、自然では「適者生存の原則」で陶汰されてゆくのですが、人工の場合、選別は人の手に委ねられます。そこでは選別に携わる人の「見識」が問われることになるのです。大きな変異は滅多に起こりませんが、小さな変異は頻繁に生じます。育種家の責任は重大、といってよいでしょう。