ストレリチア秘話No.432 ストレリチアと日光(太陽光線)

 私は夕日を眺めるのが好きで、60歳代の頃、10年がかりで夕日の撮影に没頭したこともあるほどです。私の住んでいるのは太平洋に近い海岸地帯で、12月を中心にして1ヶ月あまり、夕日が海に沈みます。日が短い季節で、しかも寒くて空中の水蒸気も少ないので夕日が最も美しい季節で、穏やかな日は毎日、夕方になると海岸へ通ったものでした。

 それは、ちょうど南アフリカベストレリチアの自生調査に出かけていた時期でもあります。その2回目の時のことでした。チチカマ森林のストレリチア アルバの自生地を訪れた帰り道、基地であるポートエリザベスへの帰り道、ちょうど夕日が沈みかけたのです。なにしろ、チチカマはポートエリザベスから200kmも離れていますから、朝、早めに出かけても、帰りは夕方になってしまいます。いよいよ始まったアフリカ大陸の夕焼けは、日本人の私には想像もつかなかったほどの壮大なものでした。私の町の狭苦しい風景と違って、大陸は空が広いのです。その大きな空が赤黒く染まってゆきます。しかも、それが、なかなか消えません。とうとう、ポートエリザベスへ帰り着くまで続いてしまいました。1時間以上は、たっぷりあったと思います。私の地域でも夕日が沈んだ後の残照はあります。でも30分も続くかどうか、まあ、あっけないもの、としかの印象しかなかったのです。故郷を遠く離れた異郷で、日中は物珍しい経験の連続ですから郷愁を感じることはなかったのですが、この夕日を見た時だけは、しんみりとした気分になったのを思い出します。

 ところで、この壮大な夕日の原因は後になって判明しました。アフリカ大陸を覆う大気には、極く、微少なホコリが大量に漂っていて、それが赤い光線を反射していたのです。私の故郷は海からの澄んだ空気ながら、水蒸気を多く含んでいることが夕日の色の違いだったのです。

 くどくどと夕日の解説をしてきましたが、実は、ストレリチアにも関係があるのです。ストレリチアの自生地、南アフリカは世界有数の日照時間に長さを誇ります。雲が少ないのです。朝から晩まで強い日射にさらされては、植物はたまったものではないでしょう。太陽光線の中の紫外線は植物に有害なのですから。そこは、よくしたものでアフリカ大陸の空は、この塵で守られています。それでも完全ではありませんから相当量の紫外線がふりそそいできます。そこでストレリチアは葉や茎を直立して光を斜めに受け流すのです。

 日本列島上空には塵はありません。春先、中国から黄砂が飛んでくるぐらいです。澄んだ大気では紫外線がどんな影響を及ぼすのか、或いは私の圃場のように冬は霜除けのために日光を相当量さえぎってしまうと、どんな影響が出るのか、これからの研究にかかっています。

 「見渡す限り、さえぎるもののない」と私は表現しましたが、厳密にみると、アフリカの大気は透き通るような、透明さはなかったのです。何だか、喜んでいいのか、悲しむべきなのか、なんともチグハグな気分です。