この「秘話」の初め頃、「人とストレリチアの相性ストレリチアに好かれる人」について書きました。今度は、そのレベルを遥かに突き抜けた人物が登場してきたお話です。僅か一か月の間に二人、しかも、どういうわけか、共に女性でした。
一人は、九州から飛行機でやってきました。2回目ですから慣れています。圃場の中から、あれこれ選ぶのでなく、いきなり、直進して、無造作に1鉢持ち出して、持って帰る仲間の鉢の中にに並べてしまいました。実は、その鉢は、私の秘宝で売る気は全然ありませんでしたから、何の説明もしてなかったのです。説明すれば、「欲しい」と言われ、厄介なことになるにきまっています。 「いいですか」と聞かれれば、「それは駄目です」と断ったに違いありません。でも、そんな暇などなく、さらわれてしまいました。それだけではありません。ジャンセア矮性種の最高品種の話を、うっかり、してしまったのです。こちらは2つに株分けしてありましたから、私も気がゆるんでいたのでしょう。まさか、欲しいとは言い出さないだろうと思っていたのに、「ああ、それも頂くわ」
と、あっさり引き取られる羽目になってしまいました。その日は、まるで、我が家の圃場に一陣の突風が吹き込んだかのような有様でした。
その後、約1ヵ月、今度は琵琶湖の畔からの女性です。こちらは3回目ですから、圃場の内容は或る程度、把握しているはずです。電話がきた頃は、既に、直ぐ近くまで来てしまっている行動の素早さです。
「今日は、ゴールドクレストの赤黒(黒紅色)ののものが欲しいのです」それを聞いた私が驚いてしまいました。確かに、その品種はあります。でも、まだ一般には公開していません。「秘話」の原稿には書きました。どうして、その存在を知ったのでしょう。この品種はトップ、クラスとはいえないまでも、優秀品種には違いありませんが、手の届かないほどの値段ではありません。何とか手に入ります。問題は、その存在を知っているか、どうかだったのです。
世の中の進歩は徐々に進行するのではないらしいようです。長い間、停滞していたのが、或る特殊な人が突き抜けてしまい、その他、大勢は後からついてくる、ということらしいのです。ストレリチアの世界も同様です。私は新しいストレリチアを生み出すのを仕事としてきました。でも、今までは、新しい品種を作り出しても、世の中の方が、なかなか、ついてきてくれないので、何年か待っていればいいのだと、のんびり構えていました。ところが、ここのところへ来て、そうはしていられない事態が起きてきました。すぐ、追いついて来る人が現われてきたのです。こうなると、ボヤボヤしていられません。
「次の品種、まだなの?」
などと、いわれかねないのです。そうなったからといっても、ストレリチアは、おいそれとは対応することが出来ません。年数がかかるのです。
今の私は、これをどうすればよいか、の段階にさしかかってきています。