ストレリチア秘話No.83 ストレリチアの栽培用具

 私はストレリチアの栽培を始めたばかりの20代の頃、神戸で買ったハサミを今でも持っています。丈夫で使い易かったので、重宝してきたのですが、さすがに60年もするとガタがきて、第一線からは退いています。それでも、まだ、使うこともあるのです。ストレリチアの種子を取り出す時、このハサミが一番、便利だからなのです。昔の園芸家には、ハサミにこだわる人は多く、皆、名の通った作のハサミを長く、大切に使っていたものでした。ちょうど、料理人が、優れた包丁にこだわるのと同じなのです。私は或る時、東京の有名刃物店で、店内のガラス ケースに入れられた包丁に見入り、なかなか、立ち去ろうとしない、料理人の卵らしい青年をみたことがありました。きっと、その品は、あこがれのものだったに違いないのです。それなのに、若者の境遇では許されず、じっと見つめるしかなかったのでしょう。

 それが現代では、安い品が多く出回り、使い捨ての時代となっています。初めは、よく切れるのですが、じきに切れなくなってしまい、使う楽しさは、どこかへ行ってしまったのです。こうなると、楽しみは、また、別に見つけなくてはなりません。