ストレリチア秘話No.584 拡がる裾野 ストレリチアのキャパシティー

 長い間、関心を持たれてきたのは、ストレリチアでは種レベルの問題でした。レギーネジャンセアパービフォリアと、主に植物学上の分類についてだったのです。それが一段落すると、ようやく、細かい部分にまで目が届く園芸の分野にバトンが渡される時代がやって来ました。

 それまでは、花の色の変化とか花立ちのようなことは何ら考慮されることなく過ぎてきたのが、人工的な栽培が広まってくると園芸上の研究に取り上げられる時代となってきたのです。ストレリチアも、他の花に遅れたものの、50年前頃から、ようやく、この段階にたどりつきました。でも、見方によっては、つい、最近の出来事ですから、このレベルに達したことに気がつかない、古い人たちも、まだ、残っているかもしれません。それは、ストレリチアとは、みんな同じだと思っていたことです。結果として、ストレリチアでありさえすればよかったのです。

 ところが、ストレリチア栽培が広まるにつれ、どうも個体差があるようだと気づき始めたのです。そこで始まったのが原種の中からの優良種の選別でした。この結果、選ばれてきたのが、今も残る有名品種です。それでも、この作業には限界がありました。ストレリチアの自生量は多くは無かったので、じきに結果が見えてしまいました。

 そこで始まったのが人工交配による育種です。遺伝学の進歩に支えられた品種改良は目覚ましい発展を始めたのです。今までにないストレリチアの性能が現われてきました。自然による進化では、環境による制約のために強い制限が課せられていたのですが、人が手を貸すことによって、今まで発揮出来なかった、隠れた能力を引き出すことになったのではないかと考えています。ストレリチアが今まで表現することのなかった分野にまで裾野が広がってきたといえるのではないでしょうか。

私のいままでの仕事を振り返りますと、一番、反響の大きかったレギーネ黄色種 ゴールドクレストの作出は、大した業績ではないと思っています。なぜなら、黄色種は、すでに原種が存在していて、私は、それを改良、増殖したに過ぎないからです。

 ところが、現在、進行中のジャンセア黄色種は事情が違います。ジャンセア黄色種の親株は存在してはいたものの、そのままでは増殖不可能だったのです。途中でサンバードの助けで初代が生れたのですが、それはオレンジ色であって黄色ではありませんでした。それを確実な黄色種にしたてのが私、鈴木なのですが、誇るつもりはありません。長い時間を掛ければ、出来たに違いないことを短期間にやってのけてしまった、というだけなのです。このように進化が自然から人手に移ると進行が速くなってきました。

 それにしても、分ったのはストレリチアのキャパシテイは、まだまだ、奥がありそうだ、ということです。これでは私の仕事は、当分の間、無くなりそうもありません。