以前、植物には自分が生まれ育った地域の環境に固執して、そっくりでなければ育たないのもあれば、少々の違いなどは平気で乗り越えて生きるのもあることを述べました。ストレリチアは、その数少ない適応派で、世界各地に広まっています。その原因は環境に対する適応の幅広さにあると見ています。
適応するとは、どんな環境でも、そっくり、そのままの姿で耐えるわけではないでしょう.それほどまで強いとは思えません。自分が移住した環境に合わせて体を替えているからだろうと思うのです。日本で言えば、東北地方のような寒い地域では、硬く締まった丈夫な体となり、沖縄のような暖かい地域では、育ちが楽で早いとは言え、やや、柔らかくなり、病原菌が侵入しやすくなる傾向になるなどの違いです。これは、どれが良い、悪いの問題ではないでしょう。ただ、その地域の特性に合わせているだけのことですから。そこで栽培する人の側で得失を調整すれば良いのです。
以前、沖縄でストレリチアの病気が大発生した時、対応策を質問されたので、「沖縄は雨が多すぎるので圃場は水はけを第一に考えた方が良いでしょう。この病気は湿り気が続くと発生するのですから」と答えましたが、これは技術者としての結論で、実際の作業は簡単なことではなかったことでしょう。
このような事情から私たちは、どの地域でも同じ育て方をするわけにはゆかないのです。
この配慮こそが栽培の奥深さであり、楽しさでもあります。ただ、育てれば良いとするような簡単なものではないのです。
これが地域の違いだけでなく、年によって気候の差まで表われます。まさに千差万別なのです。前の章で近頃は技術より遺伝が優先すると述べましたが、それは昔と比べてのことであり、決して栽培技術を軽くみているわけではありません。植物の栽培は、ただ、面倒を見れば良いのではありません。植物が抱えている情況を察知して、それに対応する処置を施すことにあるのです。
